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今から70年前、デレク・プライスという人物がある稿本を調べたところから物語は始まる。そこには「アストロラーベ」という言葉とチョーサーと読める単語が書かれていた。おそらく500年間開かれたことのないこの稿本とイギリスの詩人チョーサーとも読める人物の名前。もしかするとこれまで未発見の新たな原稿なのか…という出だしで本書は始まる。しかもアストロラーベとは何なのか…。
科学はルネサンスから始まったもので、ヨーロッパの中世は宗教に支配された暗黒の時代だといわれることが多い。確かに歴史の教科書を読んでも十字軍や対立教皇の話題が多くキリスト教がらみの争いばかりが書かれいてる。
しかしこの見方は、あくまで今の私たちの時代における分類が基になっているだけだ。中世人の立場で考えてみるとどうなるだろう。何かを観測する装置もなく、天を見上げれば神々が住む世界がぐるぐる回っていることに気づくのが精一杯だった。
それでもできうる技術を用いて、明日の天候や作物を育てるタイミングを推し測っていた。つまり神によって与えられた宇宙の中に住んでおり、身の回りの自然がそのようになっていることを、「どう」なっているのかではなく、「なぜ」という観点で考えていただけなのだ。
自然科学という分野が生まれていない時代、人々は神の世界を理解するために研究をした。つまり修道士が宗教だけではなく「科学」の研究もしたのだ。
修道院にはあらゆる世界の文献が集められ、ラテン語に翻訳されたことでヨーロッパの人々は最新の科学を手に入れることができた。カール大帝のもとアラビア語やギリシア語の文献を集め翻訳してきたからこそヨーロッパにはそれ以前の科学や哲学を手に入れられたのだ。その中には、本書にも出てくる「アストロラーベ」もあった。アラビアの天文観察、ギリシアの哲学やその解説、インドの数字などさまざまな外国の知識を吸収し、発展させたのが中世だった。
そのため図書館が修道院に作られ、さらに修道院だけに独占されまいと大学が作られた。そこにも重要な資料が集められた。そのため修道士たちは大学へ留学することにもなる。アラビア語を読み、ギリシア語を読んで最新の知見を身に付けた修道士だからこそ、高度な惑星観測装置としてのアストロラーベを作り、改良してきたのだ。
その集大成とも言えるものがウィップル博物館に保存されていたアストロラーベだった。本書はその解説書を発見したデレク・プライスの物語となっている。そこにはチョーサーという表記にあの詩人を思い浮かべたことから始まる中世科学探索の道が描かれている。そして事実は、このアストロラーベは中世の修道士ジョン・ウェストウィックの手によるもので、当時の科学はこうした修道士によって進展していったことが徐々にわかってくる。
中世の本当の姿とはどのようなものであったのか、当時の世界観に基づいて解説しつつ、さらに高度なエクァトリウム(惑星計算器)まで、驚くような緻密な科学と宗教の関わりについて明らかにしていく。
【目次】
序章 謎の稿本
第1章 WestwykとWestwick
第2章 時を数える
第3章 組合(ウニウェルシタス)
第4章 アストロラーベとアルビオン
第5章 土星一室
第6章 司教の十字軍
第7章 惑星計算器
終章 謎の装置