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説明
〈彼は愚かではなかった。まったく思考していないこと――これは愚かさとは決して同じではない――、それが彼があの時代の最大の犯罪者の一人になる素因だったのだ。このことが「陳腐」であり、それのみか滑稽であるとしても、またいかに努力してみてもアイヒマンから悪魔的なまたは鬼神に憑かれたような底の知れなさを引き出すことは不可能だとしても、やはりこれは決してありふれたことではない。死に直面した人間が、しかも絞首台の下で、これまでいつも葬式のさいに聞いてきた言葉のほか何も考えられず、しかもその「高貴な言葉」に心を奪われて自分の死という現実をすっかり忘れてしまうなどというようなことは、何としてもそうざらにあることではない。このような現実離れや思考していないことは、人間のうちにおそらくは潜んでいる悪の本能のすべてを挙げてかかったよりも猛威を逞(たくま)しくすることがあるということ――これが事実エルサレムにおいて学び得た教訓であった。しかしこれは一つの教訓であって、この現象の解明でもそれに関する理論でもなかったのである〉
組織と個人、ホロコーストと法、正義、人類への罪… アイヒマン裁判から著者が見、考え、判断したことは。最新の研究成果にしたがい、より正確かつ読みやすくし、新たな解説も付した新版を刊行する。
【目次】
新版にあたって――凡例
読者に
第一章 法廷
第二章 被告
第三章 ユダヤ人問題専門家
第四章 第一の解決――追放
第五章 第二の解決――強制収容
第六章 最終的解決――殺戮
第七章 ヴァンゼー会議、あるいはポンテオ・ピラト
第八章 法を遵守する市民の義務
第九章 ライヒ――ドイツ、オーストリアおよび保護領――からの移送
第十章 西ヨーロッパ――フランス、ベルギー、オランダ、デンマーク、イタリア――からの移送
第十一章 バルカン――ユーゴスラビア、ブルガリア、ギリシャ、ルーマニア――からの移送
第十二章 中欧――ハンガリア、スロヴァキア――からの移送
第十三章 東方の殺戮センター
第十四章 証拠と証人
第十五章 判決、上告、処刑
エピローグ
追記
解説 大久保和郎
新版への解説 山田正行
関係年譜/文献/事項索引/人名索引