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説明
本書は、1950年から63年までの13年間にわたってルイスが認めた138通の書簡を収録する。
文通相手のメアリ・ウィルズ・シェルバーンはその頃55歳、夫と死別したカトリック信徒で、多くの問題や悩みを抱えていた。
大西洋を隔てて生前ついに相まみえることのなかったこの女性の手紙に、ルイスは多忙な生活の中から懇切な返事を書き送り、人生上、信仰上の様々なアドバイスを記した。
ルイスの死で終わったこの一連の書簡を読むと、相手を思いやるルイスの牧会者的な素顔が彷彿とする。
【書評】
文通を通して現れる人間のすがお 安藤聡 (あんどう・さとし-大妻女子大学教授)
本書は副題が示すとおりC・S・ルイスが「アメリカの一女性に宛てた手紙」を集めたものである。この文通相手は、時おり詩を書いて投稿する素人詩人である点を除けばごく平凡な、ルイスと近い年齢の、二人の夫と死別して孤独な毎日を過ごしている女性であるようだ。一九五〇年からルイスの死の三ヶ月前まで、一三年にわたって書かれた一三八通の書簡をクライド・S・キルビー(ルイス論を多く著している研究者)が編集し、米国で一九六七年に、英国でその二年後に出版された本書が、このたび初めて邦訳された。 ここに収録された手紙が書かれた時期には、ルイスにとっての大きな転機がいくつか含まれている。文通が始まった一九五〇年から五六年にかけて『ナルニア国物語』全七巻が出版され、一九五五年にそれまで三〇年の長きにわたって研究員を勤めたオクスフォード大学からケンブリッジ大学に移籍して新設の中世・ルネサンス文学講座の教授として就任し、一九五六年にジョイ・デイヴィッドマンと結婚し、四年後に死別している。このような時期のルイスの日常を知ることが出来るという点でも、本書は大変興味深い。 相手のメアリー・W・シェルパーンがルイスに綴ったのは、おそらく日々の生活の悩み相談、と言うよりも愚痴と言った方がいいような内容らしい。ルイスの方も、時に多忙のあまり手紙を書く時間がないことや自分の体調不良などに関する愚痴を交えながらも、彼女の病気や職場での人間関係、失業や貧困に関する愚痴に対して、真摯に応えている。 だが多くの読者にとっては、相手の女性の個人的な状況よりも、ルイスの返信の行間に垣間見える彼の考えを読み取ることの方が、はるかに興味深いに違いない。例えば一九五二年一一月一〇日付けの書簡で、カトリックに改宗した彼女に対してルイスは、真の信仰を持つもの同士であれば、異教徒であっても相通じるものがある、と書いている。ここを読むと、『最後の戦い』で(スーザンが排除された一方で)異教徒イーメスがアスランの国に歓迎された理由が自ずと明白になるであろう。 |
一九五三年八月一日には、現代社会で問題なのは成長過程にある人間をなるべく長く思春期に留めておこうとする傾向だ、と述べているが、ここにスーザンが受け入れられなかった理由が読み取れよう。翌年の三月末日付けの手紙では現代詩に嫌気が差しているという本音を語り、九月一九日にはアイルランド北部(特にドニゴール州)の山岳地帯の素晴らしさを力説している。 (本のひろば2010年8月号より転載) |